「賃貸でもう少しがんばって生産性爆上げな書斎を DIY する(L 字デスク製作)」や、その前の「賃貸でサクッと生産性爆上げな書斎を DIY する(ラブリコ 2x4, 壁掛けディスプレイ)」でご紹介した仕事部屋 DIY ですが、できる範囲で Ergonomics(人間工学)っぽさを意識しています。
Ergonomics の考え方に沿った作業環境が実現できると身体的な負担を減らして過ごすことができます。
またもちろん個性や体調にもよるのですが、眼精疲労、肩こり、腰痛などの軽減も期待しています。
この記事では私が Ergonomics を意識して身体に負担の少ない仕事部屋を DIY するにあたって試みている思想と実現方法を書いてみます。
設計思想
私は Ergonomics の専門家ではないので広範に適用しようとせず、室内で PC を使う状況だけを主に考えて次のポイントを意識しました。
- PC ディスプレイを目線の高さに合わせる
- 背中が丸まらないようにする
- 机の天板を肘が無理なく乗る高さに合わせる
- 足元を広くとる、姿勢が崩れる障害物を置かない
このように特に難しいことは考えていませんし、箇条書きして挙げると「それはそうだよね」と感じる点ばかりです。
私はこのような基本的な考え方を Ergonomics を研究していた元同僚に習ったのですが、彼が公開している「リモートワーク(在宅)における仕事環境の改善〜初級・中級・上級ごとに〜| kargo かるご / ErgoHealth | note」はわかりやすく具体的に在宅勤務の環境を改善する方法がまとめられているのでとてもオススメです。
実は(1)はオフィスチェアとフットレストで高さを調整できます。
(2)は背筋が伸びた良い姿勢を保つ必要があるので、役立つのは主に椅子です。
(3)も仮に天板に肘が乗らなかったとしても、良いオフィスチェアなら肘掛の角度と高さを調整して肘を正しい位置で支えられます。
例えば定番ですがハーマンミラー社のアーロンチェアなどの高級オフィスチェアを導入できるとかなり改善します。
(画像はハーマンミラー社公式サイトより引用)
ただしあくまでワークチェアかつ固めに調整されているので、例えば「ゆったり座って映画を観る」ような用途には向きません。
作業のための椅子として導入すべきです。
また好みや体質によっては他の椅子の方が合う方も当然おられるでしょう。
前傾も後傾もできるので、集中/発散いずれの場合でも、また PC/紙いずれの場合でも対応できる椅子だと感じました。
(4)の「足元を広くとる」理由は、足元が狭かったり障害物があると足の位置が不自然になり、結果として腰や背中が曲がり姿勢が悪くなるためです。
実際、私の 2019 年の構成では机の脚と人間(私)の足が干渉しやすく、もちろん机の脚は避けてくれないため私が足をズラして避けるしかなく、しばしば無理な姿勢になっていました。
これもまた椅子の形やサイズとも関係します。
ですから Ergonomics 観点では PC ディスプレイ、机、椅子など、自分の身体をおく環境はそれぞれを個別に考えるのではなく統合的に検討すべきでしょう(なかなか一度に手が回りませんが)。
設計方針
前述の思想を反映した部屋を東京 23 区内の賃貸ラビットハウスでいかに手に入れるか考えた結果、私は DIY を選択しました。
DIY での設計方針は次の通りです。
時間もお金もなるべく使わない
DIY 自体が目的であれば趣味として時間やお金をつぎ込む考えもあるかもしれませんが、あくまで部屋の環境改善により自分の生産性を上げることが目的なので、できる限り「安く手軽に」作ります。
もちろん購入した方が効率良いものは購入します。
つぎ込む時間と費用ですが、特に机や棚といった動かしづらいものは「引っ越すときに捨てても惜しくないくらい」を目安に考えています。
賃貸物件で「 DIY に注ぎ込んだサンクコストがもったいなくて引っ越せない」となってしまっては本末転倒です。
加工しやすく、廃棄しやすく
机や棚などを作るときは使い勝手が良く、かつ素人の加工技術でも地震などで壊れにくいように部屋の寸法にぴったり合わせています。
そもそもの形や構造、色など全てが部屋に依存しているので「この部屋を去るときは捨てる」つもりで作っています。
したがって廃棄方法に困る大きな金属部材などは使わずに木材を主に使うことになります。
後述の加工技術と相まって木材の大きさも重要で、ホームセンターの資材コーナーの広さに合わせてしまって大きすぎる部材を購入すると設置やその前の搬入で途方に暮れることになります。
車を使える場合でも 2m を超えると運搬が困難になるのではないでしょうか。
通販なら広い一枚板なども入手でき玄関先まで運んでもらえるのでしょうが、長く大きくなれば大抵は重量も増えますし送料を含めた総額がかなり上がってしまいます。
そのため 2x4 材を主に使い、天井と床に突っ張った柱が見えることを許容しています。
もちろん見た目だけ考えれば 2x4 材が見えない方が綺麗なのですが、後から気になる部分だけ隠せれば十分と割り切っています。
また塗装は原則諦めています。
過去の記事にも書きましたが、塗装するためには部材を並べて置ける場所が必要ですし、室内で塗るなら養生をしっかりする必要が生じますし、外で塗る場合はご近所への塗料や臭いの拡散が気になります。
塗料の種類によっては廃棄にも気を遣うことになります。
自分の加工技術を低く見積もる
前述の通りできる限りホームセンターで切ってもらい持ち帰れるサイズで設計しています。
ホームセンターのパネルソー(画像検索結果)で切れるところまで切ってもらうことで長さも設計通り直角も綺麗に出ます。
ホームセンターのカット料金は 1 カットせいぜい数十円なので、自分でノコギリを引いて変な角度で切れた部材と大量のおがくずを手に入れるよりは 10cm だってお店で切っていただきたいと思っています。
またパネルソーの制約で斜めや曲線のカットは依頼困難なので、できる限りすべてを長方形で構成します。
丸や三角は部材がそのまま購入できる場合を除いて登場しないよう設計します。
例えば縦横が最大 2m の L 字デスクを作るのであれば、左の図のように天板は一枚の板を切り抜き、内側に丸みをつけて仕上げられたら理想的です。
しかし 2m 四方の板などそうそう運べませんし、正しい角度を保ちながら、天板の奥行き分を残して 2 方向から直線で切り込み、さらに中心部は曲線で切る極めて高度な加工が必要です。
そのような加工を実現するためには色々な大型工具を使わざるを得ないですし手間やお金は相当なものになります。
現実的に作れる天板は 2 枚の細長い板を直角に並べた構造でしょう。
このように理想から自分で加工可能な現実的な設計に落としていきます。
工具を増やさない
工具、特に電動工具はとても便利なのですが、使うときは騒音の問題が、使い終わったあとは収納場所とメンテナンスの問題が生じます。
電動工具への憧れはあるので丸ノコ、トリマー、グラインダーなどなど欲しい気持ちはあるのですがこれらの問題を鑑みて電動ドライバーやリューターなど最小限の小型工具で加工と設置を済ませられるよう設計しています。
余談ですが電動ドライバーは LED ライト付きがオススメです。
机の天板裏や棚板の影になって見づらい場所でもトリガーを軽く引くとネジを明るく照らしてくれるのでかなり作業しやすくなります。
またいわゆる「リューター」があると磨きや細工以外にも「板の端が数ミリ厚くて入らない」といった場合に 1〜2mm であれば薄くすることができて便利です。
このように「安く、手っ取り早く、しかし快適に」環境を作るために、理想をイメージしたうえで加工まで想定して実現可能な設計をします。
私の場合はBlender(3DCG ソフト)で直方体を組み合わせるだけでも役立ちました。
360° グリグリ回してみることで、脳内だけで思い浮かべた物体が現実空間に出現したときに思い描いた通りの印象を受けるか想像しやすくなります。
現実世界の物質を一切加工せずに構造を自由に組み替えたシミュレーションができるので、部材の組み合わせや加工方法ががんばれる程度か、曲げモーメントなどもざっくり想像しながら強度が実用に耐えそうかイメージできます。
加工例
おおよその設計ができたら材料を購入し加工していきます。
厳密に設計するには入手できる部材の詳細な仕様が必要になるので、構造と主要な部材のサイズだけをメモして細かい部分はホームセンターでスケール片手に考えます。
壁掛け PC ディスプレイ
「賃貸でサクッと生産性爆上げな書斎を DIY する(ラブリコ 2x4, 壁掛けディスプレイ)」でざっくり紹介してますが、LABRICO 2×4 アジャスターと溝入り 2x4 材でフレームを組んで、横方向の溝をレールとして使っています。
そのレールにディスプレイ壁掛け金具をつけた 1x6 材などをはめています。
すべての金具が中心より向かって左に寄っていますが、これは使っているディスプレイに合わせて HDMI ケーブルなどが干渉しないようにあえてズラしています。
在宅勤務などで長時間座っているといつの間にか首が曲がりすぎたり背中が丸まったりして姿勢が崩れがちです。
そこでこのように自分の目線の高さに合わせて PC ディスプレイを壁に掛けることで、少しでも長く良い姿勢を保てるようにしています。
またディスプレイの下が空くため、画面を程よく目に近づけつつ手元を広く使えるようになります。
手元が広く使えるということは肘を天板に乗せやすくなるということで、この点でも身体への負担が減ります。
ディスプレイが宙に浮いていると見た目もすっきりしますし掃除もしやすくなります。
もちろんディスプレイアームでもこれらの利点を得られます。
しかし大型ディスプレイを複数支えられるアームは選択肢が少なく、ディスプレイごとにアームを付けるとアーム同士の干渉が発生したり設置場所が広く必要になります。
またそもそもディスプレイがちゃんと空中に止まるディスプレイアームの選定がなかなか難しく、当然ながら高品質なディスプレイアームは価格も高い傾向にあります。
私も以前はディスプレイアームを使っていたのですが、最近はディスプレイサイズが大きくなり枚数も多く使う必要が生じたため 2x4 材を加工して壁に掛けることにしました。
ディスプレイアームと比べてこの構造が有利な点は、扱えるディスプレイ枚数が多いことと机の天板形状や材質を選ばないことです。
壁からディスプレイまでの距離ももしかするとディスプレイアームを使う場合より短くて済むかもしれません。
逆にこの構造では 1 度設置してしまうと高さ調節が煩雑になるので、頻繁に高さを変える方は壁掛けではなくディスプレイアームを使った方が便利でしょう。
L 字テスク
「賃貸でもう少しがんばって生産性爆上げな書斎を DIY する(L 字デスク製作)」のタイミングで既製品の机をやめて L 字デスクを作りました。
再掲しますが、机を作ったことで手元も足元も快適になりました。
風合いがナチュラルウッドに統一されたので見た目もすっきりしました。
以前使っていた複数の机はそれぞれ価格に見合った品質でしたし単体で使うのであれば十分に満足できる製品だったのですが、複数の既製品をやや強引に並べていたことによる天板の段差と脚の多さが実は不便だったと今でこそ思います。
足元をすっきりさせた代償として机の構造では少し無理をしています。
安定性と強度を最優先に考えると L 字デスクの脚は左の図のように配置すべきです。
しかし「L 字部分の真ん中に脚ができては作る意味がない」と強く感じたので、考えた上で右の図のように脚を配置しました。
減ってしまう強度を補い、天板の長さと構造上避けられないねじれに対処するため 6 本の脚全てを溝入り 2x4 材で作りラブリコで天地に突っ張っています。
そして突っ張った脚同士を 2x4 材で結び、その上に天板を乗せています。
2x4 材同士の固定にはさすがに金物を使いました。
このサイズの金物であれば処分するときは不燃ゴミに出せます。
2x4 材だけを表示し机の内側上方からみるとこのような構造になっています。
この構造のおかげで足元が完全に自由になりました。
自由になった足元に良い椅子を置けば身体への負担はかなり減るでしょう。
アーロンチェアはしばらく試座させてもらっていたのですが、本当に素晴らしかったです。
椅子はさすがに DIY というわけにはいきませんし、長く使える自分にあったものを選びたいと考えています。